秋の野に静かに咲く紫苑(シオン)。淡い紫の小さな花が集まる姿は、どこか懐かしさを感じさせます。この記事では、紫苑の花言葉「追憶」「君を忘れない」の意味や、色別・英語の花言葉、そして『今昔物語集』に伝わる切ない由来までやさしく解説します。
亡き父を忘れまいと、墓のそばに紫苑を植え続けた弟の話が、説話集『今昔物語集』に残っています。紫苑の花言葉は、この古い説話とともに語り継がれてきました。華やかさではなく、人を思う気持ちの深さで語られる花です。
紫苑の花言葉は「追憶」「君を忘れない」「遠くにある人を想う」。亡き人や離れた相手への変わらぬ思いを表す、奥ゆかしい花です。
紫苑(シオン)の花言葉とその意味
紫苑の花言葉は、全般として「追憶」「君を忘れない」「遠くにある人を想う」です。いずれも、過ぎ去った日々や、そばにいない大切な人へ向ける静かな思いを表しています。
秋の終わりまで咲き続ける息の長い花で、その姿が「いつまでも忘れない」というイメージに重なります。だからこそ、追悼や偲ぶ気持ちと結びついた花言葉が生まれたのですね。
紫苑の花言葉は、恋の情熱を伝える言葉ではなく、時間が経っても変わらない気持ちを表す言葉でまとまっています。バラやカーネーションのように相手への愛情を直接ぶつけるのではなく、相手を思い出す側の心を映すのが特徴です。
そのため紫苑は、告白や求愛のように気持ちを前へ押し出す場面よりも、時間を置いてから静かに思いを伝える場面に向いています。

全般の花言葉「追憶」「君を忘れない」
紫苑を代表する花言葉が「追憶」と「君を忘れない」です。どちらも、心に残る人や記憶を大切にする気持ちを表しています。
そのため紫苑は、故人を偲ぶ花や、遠く離れて暮らす家族・友人を思う花として親しまれてきました。にぎやかな華やかさではなく、しっとりとした情緒を感じさせる花言葉といえます。
三つの言葉は、向いている場面が少しずつ違います。「追憶」は過ぎた時間を、「遠くにある人を想う」は離れた距離を、「君を忘れない」は相手への約束を表す言葉として使い分けられます。
「追憶」が向く相手は、人だけではありません。子どものころ過ごした土地や、いっしょに眺めた秋の景色など、思い出そのものを指す使い方もできます。メッセージカードに書き添えるなら、思い出の場面を一つ具体的に書くと、花言葉の意味がそのまま伝わります。
紫・白の色別の花言葉
紫苑には色ごとの花言葉もあります。下の表にまとめました。
| 色 | 花言葉 | イメージ |
|---|---|---|
| 紫(基本色) | ごきげんよう/時が経つのを忘れて | 穏やかであたたかい時間 |
| 白 | どこまでも清く | 清楚で純粋な気持ち |
紫の紫苑は「ごきげんよう」「時が経つのを忘れて」といった、再会や心地よいひとときを思わせる言葉を持ちます。白の紫苑は「どこまでも清く」と、清らかさを表す花言葉が添えられています。
二つの色は、表す気持ちの方向が異なります。紫は再会や打ち解けた時間に、白は気持ちの清らかさに焦点があります。ただし色別の言葉は補助的なもので、どの色でも全般の花言葉は共通して添えられます。
生花店や園芸店で見かける紫苑は、淡い紫色のものが中心になりがちです。白い花は扱いが少ないこともあるため、色にこだわって探すより、全般の花言葉を軸に選ぶと迷いません。
英語(西洋)の花言葉
紫苑は英語で「Tatarian aster」と呼ばれ、西洋の花言葉も伝わっています。
- patience(忍耐)
- daintiness(優美・繊細)
- symbol of love(愛の象徴)
「忍耐」や「優美」など、日本の花言葉とはまた違ったニュアンスです。星形に広がる花びらの繊細な美しさが、こうした言葉に表れているのでしょう。
属名の Aster は、ギリシャ語で星を意味する語です。細い花びらが放射状に開く形を星に見立てた名で、「daintiness(優美・繊細)」はこの姿と重なります。
英名の Tatarian aster は、シベリアから中国北部にかけて広がるタタール地方の名を冠した呼び名です。分布する土地の名が入るぶん、日本の「追憶」のような物語性は含まれていません。
「patience(忍耐)」のほうは、秋が深まるまで咲き続ける花期の長さに重なる言葉です。同じ花でも、見る土地が変われば言葉の切り口も変わります。
紫苑の花言葉の由来|『今昔物語集』の兄弟の話
紫苑の花言葉「追憶」「君を忘れない」の由来は、平安時代の説話集『今昔物語集』に収められた物語にあるといわれています。亡き父を思い続けた、ある兄弟の話です。
この話は『今昔物語集』の巻三十一、第二十七話として収められています。巻三十一は日本のさまざまな出来事を集めた巻で、その中に兄弟と草花の逸話が並びます。
花言葉という考え方そのものは近代に西洋から広まったもので、説話は花言葉を説明するために書かれた話ではありません。紫苑の場合は、この古い説話が意味づけの土台になっています。
兄と弟のどちらが正しいという話ではなく、悲しみとの向き合い方が二通り描かれる点がこの説話の要点です。
父を想い墓前にシオンを植えた弟の物語
物語では、父を亡くした兄弟が、それぞれ墓参りを続けます。やがて兄は萱草(わすれぐさ)を植えて悲しみを忘れようとし、弟は紫苑を植えて、いつまでも父を忘れまいとしました。
弟は雨の日も風の日も欠かさず墓参りを続けます。その一途な姿が、「追憶」「君を忘れない」という花言葉につながったとされています。
この物語で効いているのは、一度きりの決意ではなく続いた時間の長さです。何年も通い続けたという設定があるからこそ、「忘れない」という言葉に重みが出ます。
兄は悲しみを手放して日常へ戻り、弟は悲しみを抱えたまま通い続けました。どちらも供養の形ではありますが、のちに花言葉として言葉になったのは、忘れずにいた弟の側です。

同じ「忘れたくない」気持ちでも、兄と弟で植えた花が違うのが印象的ですね。
「鬼」と予知能力にまつわる言い伝え
この物語には、少し不思議な続きがあります。弟の健気さに心を動かされたのは、なんと墓を守る鬼でした。
鬼は弟の親孝行に感心し、未来を見通す予知能力を授けたといいます。そのおかげで弟は災いを避け、生涯を幸せに過ごせたと伝えられています。父を思う純粋な心が、思わぬ幸運を呼び込んだという、心あたたまる結末です。
説話で鬼が授けたのは、その日に起こることを前もって夢で知らせるという力でした。何もかも見通せる万能の力ではなく、一日の吉凶を先に教える形で描かれています。
登場する鬼は墓(塚)の主で、弟を脅かす存在ではありません。恐ろしいはずの鬼が親を思う心に応えるところに、この説話の意外さがあります。弟が力を得られたのは親を恋う心が深かったからだと、話は結ばれています。
紫苑は「怖い花言葉」?噂の真相
紫苑を調べると「怖い」という言葉を見かけることがあります。結論からいうと、紫苑そのものに恐ろしい意味の花言葉はありません。
「怖い」と語られる理由は、紫苑が墓前に植えられた物語や、故人を偲ぶ花というイメージから「死」を連想させるためと考えられます。あくまで死を悼み、思いを寄せる文化的な背景であって、不吉な花というわけではありません。
「怖い」と結びつく理由は、三つに整理できます。墓前に植えたという説話、追悼の花として使われてきた歴史、そして鬼が登場する古い別名です。
どれも花そのものの性質ではなく、物語と使われ方から生まれたイメージです。花言葉として紹介されるのは、いずれも人を思う気持ちを表す言葉ばかりです。
気になるのは、贈って失礼にならないかという点でしょう。お見舞いや快気祝いのように「元気になってほしい」を伝える場面では、追悼を連想させる花は避けるのが無難です。反対に、法要や偲ぶ会、遠くで暮らす人へ気持ちを届ける場面なら、意味がそのまま生きます。
ここがポイント:紫苑の「怖い」イメージは、墓参りの物語や追悼の花という背景からくるもの。花言葉自体は「追憶」「君を忘れない」と、人を思う優しい言葉です。
ほかの花の「怖い花言葉」が気になる方は、こちらの記事もあわせてどうぞ。


紫苑の花の基礎知識
花言葉とあわせて、紫苑という花そのものの特徴も知っておくと、より親しみがわきます。名前の由来や咲く季節、別名を見ていきましょう。
紫苑はキク科シオン属の多年草で、学名は Aster tataricus といいます。中国北部や朝鮮半島、シベリアに広く分布し、日本では中国地方と九州の一部に自生します。
野生の株は、草地の開発や手入れされない土地の増加で数を減らしています。環境省のレッドデータブック(2007年)では、絶滅危惧II類(VU)に選ばれました。花壇や切り花で目にする紫苑は栽培されたもので、山野の自生株とは分けて考えると理解しやすくなります。
名前の由来(中国語「ジワン」から)
「紫苑(シオン)」という名前は、中国での呼び名に由来します。中国では「紫菀(ジワン)」と呼ばれており、その音読みが日本で「シオン」として定着しました。
「紫」は花の紫色を、「苑(菀)」は草木が茂るさまを表すといわれています。文字どおり、紫の花が群れて咲く様子をとらえた名前なのですね。
根と根茎を乾かしたものは、生薬の「紫菀(しおん)」として古くから知られてきました。日本でも平安時代には薬用として栽培された記録があり、観賞用より先に薬草として伝わったとみられます。
花の名として書くときは「紫苑」、生薬として書くときは「紫菀」と、同じ音でも字を使い分けるのが一般的です。園芸店の表示と漢方の資料で字が違って見えるのは、このためです。
開花時期・季節(秋/9〜10月)
紫苑は秋を代表する花のひとつです。開花時期はおおよそ9月から10月ごろで、草丈は高いものでは2メートル近くにもなります。
細い茎の先に、淡い紫色の小さな花をたくさん咲かせます。一輪では控えめですが、群れて咲くと秋の野を彩る風情ある景色になります。
早い株では8月の終わりごろから咲き始め、盛りは9月から10月です。夏の花が終わって秋の草花に入れ替わる時期に、ちょうど見ごろを迎えます。
俳句では仲秋の季語として扱われ、旧暦八月ごろの季節感を表します。背が高く育つ草なので、花壇では後列に植えると手前の草花が隠れません。
花束にするときは、茎が長く一輪の花が小さいという性質が生きます。主役の花のうしろに添えると、全体の輪郭がやわらかくまとまります。
別名「十五夜草」「鬼の醜草」など
紫苑にはいくつかの別名があります。秋の月見の頃に咲くことから「十五夜草(じゅうごやそう)」と呼ばれることがあります。
また、先ほどの鬼の物語にちなんで「鬼の醜草(おにのしこぐさ)」という古い別名も伝わっています。どちらも、紫苑と秋・物語との結びつきを感じさせる呼び名です。
「醜草」の「しこ」は、古い言葉では強く荒々しいさまを表す語としても使われました。花の姿をけなした名ではないと考えると、印象が変わります。
「十五夜草」のほうは、中秋の名月のころに咲くことに由来します。月見の飾りに秋の草花を添える習わしと、紫苑の開花期がちょうど重なります。
装いの世界にも紫苑の名は残っています。襲(かさね)の色目の「紫苑」は、表に薄紫、裏に青を合わせた秋の配色です。平安時代の人が、花の色をそのまま装いの名として使っていたことがわかります。
名前そのものが兄弟の言い伝えから生まれた花は、紫苑だけではありません。弟切草は、鷹匠の兄が秘密を漏らした弟を斬ったという伝説から名がついた花です。弟切草の記事では、その伝説と「秘密」「恨み」という花言葉のつながりをたどっています。


紫苑はどんなときに贈る花?誕生花は?
紫苑は、相手を思う気持ちを伝えたいときにぴったりの花です。誕生花としての日付や、贈るときのポイントを確認しておきましょう。
紫苑を贈る場面は、大きく二つに分かれます。故人を偲ぶ場面と、離れて暮らす人へ気持ちを伝える場面です。
花の時期が秋の彼岸から十月ごろにあたるため、法要や墓参りの時期と自然に重なります。同じ時期に誕生花の日付も並ぶので、秋生まれの人への贈り物としても選びやすい花です。
一方、結婚や出産のお祝いのように華やかさが求められる場面では、主役ではなく添え花として使うほうがまとまります。同じ秋の草花と束ねると、季節感のある一束になります。
誕生花の日付(9/9・9/20・9/28・10/16)
紫苑は、いくつかの日の誕生花とされています。
- 9月9日
- 9月20日
- 9月28日
- 10月16日
いずれも紫苑が咲く秋の時期にあたります。この日に生まれた方への贈り物に、紫苑を選ぶのも素敵ですね。
9月9日は菊の節句とも呼ばれる重陽の節句で、キク科の紫苑が誕生花に挙がるのは季節にかなっています。9月20日・9月28日・10月16日も、ちょうど花が咲きそろう時期です。
9月は日ごとに違う花が割り当てられています。30日分の花と花言葉を一覧にした記事で、前後の日付もまとめて確かめられます。


贈るときのポイント・注意点
紫苑を贈るときは、花言葉の意味を一言そえると気持ちが伝わりやすくなります。「君を忘れない」という言葉は、遠くで暮らす家族や、久しぶりに会う友人へのメッセージにふさわしいものです。



「いつまでも忘れないよ」という気持ちを、さりげなく花に託せるのが紫苑のいいところです。
一方で、「追悼」のイメージが強い花でもあります。お祝いの場で贈る場合は、明るい色の花と組み合わせるなど、シーンに合わせて選ぶと安心です。
言葉を添えるときは、「忘れない」をそのまま書くと重く響くことがあります。「秋になると思い出します」のように季節を挟むと、同じ気持ちでもやわらかく伝わります。
なお、紫苑の「君を忘れない」のように、恋の終わりや別れの気持ちに重なる花言葉はほかにもあります。失恋を意味する花をまとめて知りたい方は、次の記事もあわせてご覧ください。


紫苑の花言葉に関するよくある質問
- 紫苑の花言葉を一言でいうと?
-
「追憶」「君を忘れない」です。大切な人や過ぎた日々を思う、変わらぬ心を表します。
- 紫苑に怖い意味はありますか?
-
不吉な花言葉はありません。墓前に植えた物語や追悼のイメージから「怖い」と語られることがありますが、本来は人を思う優しい花です。
- 紫苑の花言葉の由来は何ですか?
-
『今昔物語集』に伝わる、亡き父を忘れまいと墓前に紫苑を植え続けた弟の物語が由来とされています。
- 紫苑はいつ咲く花ですか?
-
秋の花で、開花時期は9月から10月ごろです。誕生花は9月9日・9月20日・9月28日・10月16日とされています。
- 花屋で見かける「アスター」と紫苑は同じ花ですか?
-
別の花です。紫苑は秋に咲く多年草で、草丈が1メートルを大きく超えることもあります。切り花で「アスター」として並ぶものの多くはエゾギクという一年草で、同じキク科でも属が違い、草丈も低めです。
紫苑の花言葉のまとめ
紫苑という花について、意味と背景を要点で振り返ります。
- 全般の花言葉は「追憶」「君を忘れない」「遠くにある人を想う」
- 色別では紫が「ごきげんよう」「時が経つのを忘れて」、白が「どこまでも清く」
- 英語では patience(忍耐)や daintiness(優美・繊細)が伝わる
- 由来は『今昔物語集』巻三十一の説話で、墓前に紫苑を植え続けた弟の話
- 怖い花言葉はなく、「怖い」の噂は墓前の物語と追悼のイメージから生まれたもの
- 開花は9〜10月、誕生花は9月9日・9月20日・9月28日・10月16日
偲ぶ気持ちを主役にしたいなら紫苑を一種でまとめ、明るい席に季節感だけ足したいなら他の秋の花に一枝そえる。同じ花でも、場面によって受け取られ方が変わります。
紫苑の花言葉は「追憶」「君を忘れない」。秋に咲くこの花には、亡き人や離れた人を静かに思う、奥ゆかしい心が込められています。大切な誰かを思うとき、そっと寄り添ってくれる花です。









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